展示会で「平賢」の技に目を引かれたのは生活雑貨専門店だけではない。思いもしなかったところからも声がかかり始めた。
始まりは宮城県岩沼市の金蛇水神社(かなへびすいじんじゃ)だった。突然2000枚の注文が舞い込んだのだ。2025年2月のことである。
金蛇水神社は仙台市から車で1時間ほどのところにある。金蛇大神(かなへびおおかみ)、つまり蛇を主祭神とする。古くから商売繁盛、金運向上、厄除け、海上安全の神として信仰され、いまでも年間30万人から50万人の参拝客を集める観光スポットになっている。
そして2025年は12年に一度の巳年。この年の元旦、参拝までに4時間もかかる長蛇の列ができたという。
その金蛇水神社が目をつけたのが、小山さんが染めた「巳」という手ぬぐいだった。巳年の縁起物として和柄の背景に、抜染の手法を使って白蛇を描いたもものだ。ホームページに「巳」は掲載していないから、神社の関係者が東京インターナショナル・ギフト・ショーの会場にやってきて目にしたらしい。
「この絵柄を元に、当神社オリジナルの手ぬぐいを染めてもらえませんか? 当社には藤棚、牡丹園があって参拝の方々に喜ばれていますので、それぞれの背景を藤と牡丹にし、白蛇を描いていただきたい。そして、この2枚を合わせると社殿の全容が浮かび出るようにしたいのです。もちろん、金箔も使ってください。」
宗教関係の注文は初めてだった。世話人をしている桐生えびす講で、えびす様、大黒様を染めた手ぬぐいは販売してきた。しかし、それは地元の祭りだからで、宗教関係の団体意営業をかけようと思ったことはない。
金蛇水神社はお守りなどと並べて授与(販売)するのだろうが、初めての取引で2000枚の発注は異例のことだ。
「なるほど、そんな売り込み先もあったか」
と思いながらデザインし、神社の了解を取り付けると染め始めた。納品したのは4月に入ってからだった。
「どうかな、と思っていたらさばけたみたいなんですよ。今年(2026年)になってすぐ、500枚の追加注文が来ましたから」
思わぬ受注で新しい営業先のヒントはつかんだが、日々の仕事に追われてなかなかそこまでは手が回らなかった。すると、またしても向こうから注文が来たのだ。島根県の出雲大社である。
旧歴10月を「神無月(かんなづき)」という。この月、全国各地の神様が出雲大社に集まって地元を留守にするからだという。その神様たちが集合する出雲地方では、この月を「神在月(かみありづき)」と呼ぶ。出雲大社は縁結びの神として知られ、このこの「神在月」に集った神様たちが男女の縁を繋いでいく。間違って3人分を繋いでしまったから三角関係ができちゃった…。ときおり落語に登場する小話だ。
その出雲大社で土産物を売る店から突然電話を受けたのは2025年12月初めのことだった。生活雑貨専門店の注文に次ぐ注文に追われていた最中である。
電話に出ると、
「初詣で客に売る手ぬぐいを作ってもらえませんか?」
何でも電話の主は、新しい土産物を発掘しようと、その年9月の東京インターナショナル・ギフト・ショーに行った。「平賢」のブースで見た金箔を貼った手ぬぐいに目を引かれた。あの技で出雲大社参拝の土産にふさわしいものができないかと考え、出雲大社のシンボルであるしめ縄を金箔で写し取った手ぬぐいなら参拝客に喜んでもらえるのではないかと思いついた、という。
「それで、イラストレーターでデザインしてみました。これから送るので見てください」
送られてきた画像をみると、手ぬぐいいっぱいに大きなしめ縄が描かれている。
「ずいぶんシンプルなデザインだな」
と思ったが、引き受けることにした。ただ、生活雑貨専門店の仕事に追われている。
「200枚ほどしかできないと思いますが、それでいいですか?」
と聞くと、それでいいという。何とか年内に染め上げて納品した。こちらも、順調に捌けたうで、2026年3月現在、発注主は
「デザインを新しくしようと検討中です」
とのことである。
考えてみれば、神仏の装飾には「金」が使われることが多い。手ぬぐいに金箔を貼る技がある「平賢」は、新しい顧客グループをつかみ始めたようだ。
写真=出雲大社のしめ縄をデザインした手ぬぐい
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