それは2025年6月の「ライフスタイルWeek【夏】」の成果だった。
できるだけ小売り業界ややバイヤーの目に留まることを目指した小山さんは、この展示会に100万円ほどつぎ込んだ。群馬県や桐生市のブースは出ていなかったから仕方がなかったとはいえ、弱小企業の「平賢」には重い負担である。いわば清水の舞台から飛び降りる覚悟を固めての出展だった。
ところが、2月に出たギフトショーに比べると客足が少ないのである。ギフトショーと同じ会場だから、いやでも客がまばらに見える。
「大枚はたいて出て見たが、これは失敗だったかな…」
どうしてもそんな思いが湧き上がる。3日間を終えてみると、集まった名刺は200枚たらず。ギフトショーの時の半分しかない。
しかも、
「『平賢』さんで作っている『桐生てぬぐい』のカタログはありませんか?」
と問いかけられて自分の手落ちに気付かされた展示会でもある。これは二重の失敗だったか?
それでも会期が終わると、小山さんは名刺の主に丁寧なメールを送った。そして、「桐生てぬぐい」のカタログ作りを急いだ。会場でカタログを欲しがった客に、
「後ほど送らせていただきます」
と約束していたからだ。
そんな忙しいさなか、小山さんは1通のメールを受け取った。
「桐生てぬぐいをもっと見たい」
と書かれていた。生活雑貨の専門店として全国に186店舗を展開する最大手の渋谷店の購買担当者だった。しかし、カタログはまだできていない。困った小山さんは。商品を管理するために作ったリストのデータを送った。これまで染めてきた「桐生てぬぐい」の画像と価格がまとめてある。
「カタログは製作中です。お急ぎのようですので、とりあえずこのリストをお送りします」
すぐに返事が戻ってきた。
「いまからオンラインで商談を始めたいのですが、よろしいですか?」
急な話だが、小山さんにはありがたい話である。だが、生活雑貨専門店は物販の大手である。厳しい価格条件を押し付けられるのではないか?
そんな警戒心を持ちながら。すぐにパソコンでオンライン商談を始めた。
「ところが、なんです。私が出した価格条件がすんなり通りまして」
すぐに具体的な話になった。基本は金箔を使った手ぬぐいである。10種類を30本ずつ、合計300本が最初のオンライン商談でまとまった。
「渋谷店」の店頭に並んだのは11月だった。そして驚いたことに、それから10日もしないうちに追加の注文が来たのである。
「この6種類を、今度は100本ずつ欲しい」
何でも、店頭では羽が生えたかのような売れ行きで、300本の在庫がほとんどなくなったのだという。そして実際、2週間足らずで完売してしまったのだ。
11月、「渋谷店」向けの売り上げは200万円に近かった。12月も勢いは衰えず、同じほどの売り上げがあった。何度も追加の注文を受け、小山さんは捺染に追われた。
そして、2026年1月、売り上げは300万円に達してしまったのである。
この生活雑貨専門店も、ここまで売れるとは思っていなかったらしい。1月後半になると、新しい提案を小山さんに投げかけてきた。
「銀座店と横浜店にも置きたい。染めてくれますか?」
いまこの生活雑貨専門店は、「桐生てぬぐい」を置く店舗を西に広げる準備をしていると小山さんは聞いた。
「本当にありがたい話です。もちろん、注文をいただければお受けします」
小山さんはこの店の寵児になったようである。
写真=たまには桐生市内の温泉にも出かける、暖簾は「平賢」製造
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