地方都市のタクシー革命 沼田屋タクシー
第19回 期待と不安

コト

小林さんはいま、「MiTT」とライドシェアを組み合わせた新しいサービスを企画している。「MiTT」で実現したライドシェアを利用した観光案内である。

桐生市に「“織都桐生”案内人の会」がある。桐生市にやって来る観光客に桐生を楽しんでもらおうという約50人が観光ガイドを引き受けている。桐生市観光物産協会に申し込めばガイド付きの桐生観光を楽しめる。利用料金は客の人数で違い、5人以下の1時間1000円(ガイド1人)から61人〜70人の1万4000円(ガイド7人)までと、ほとんどボランティアに近いサービスだ。
これほど安く利用できるのは、すべて徒歩での案内だからである。だから行動範囲が限られ、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に指定されている本町1、2丁目を案内することが多い。
だが、桐生観光にやって来る人の中には、もっと広範囲に動きたいという人もいる。マイカーで訪れれば可能だが、電車で来ればタクシーに頼るしかない。ほとんどが沼田屋タクシーの客になる。

「だから、運転手さんたちが観光ガイドをできるように教育、訓練をしなければならないのですが、高齢化が進んでいることもあって、これがなかなか出来なくて」

それが小林さんの悩みの種だった。だがいま、「武器」が手に入った。ライドシェアである。桐生市観光ガイドの専門家である「“織都桐生”案内人の会」のメンバーにライドシェアの運転手になってもらえれば行動範囲がぐっと広がり、最強の組み合わせになる。

「そう思いついたので、案内人の会のメンバーに声を掛けてみたのです。すると2、3人が『やってみたい』と手を上げてくれました。2026年にはサービスを始める予定です」

そして小林さんは、新しい「夢」を持ち始めた。「MiTT」を使った観光案内である。コンピューターなら、観光地の説明を正確に、いくらでも記憶してくれる。しかもAIを組み込んで自動音声応答の機能もあるから、客と会話し、さまざまな質問に答えることも出来る。だからタクシーの運転手はただ目的地に向けて車を走らせればよく、客との会話や名所案内は「MiTT」任せに出来るではないか。
全国には観光地が数多い。タクシーで観光スポットを回りたいという観光客もいるはずだ。全国的にタクシーの運転手不足、高齢化が進んでいるのだから、「MiTT」を活用して観光客の求めに応えたいというタクシー会社は多いのではないか?
実現すれば、小林さんは「MiTT」を普及させる2つ目の手がかりを手に入れたことになる。

ITがタクシー事業を変え始めた。いま小林さんはその最先端にいる。一見、華やかな未来が待っているようだが、最先端にいるからこそ見えてきた不安もある。

超党派国会議員で作る「ライドシェア勉強会」の会長である小泉進次郎氏は2024年の自民党総裁選に出馬した際、ライドシェアの全面的解禁を公約に掲げた。タクシー会社が管理する日本型ライドシェアは既得権益の象徴だ。日本経済を再活性化するには既得権益を打破しなければならない。配車アプリの運営会社とドライバーが契約を結んで自家用車で客を運ぶアメリカ型のライドシェアを日本でも導入しなければならない。それが小泉氏の主張だった。

「もしそれが実現すれば、私たちタクシー会社の出番はなくなるんですよ」

小泉構想には、タクシー業界を管轄する斉藤・国土交通相(当時)が

「(日本型ライドシェアで)既得権益を守る意識は全くない」

と反論した。

島根県の丸山達也知事も

「タクシー会社がつぶれて、ライドシェアで(移動を)誰にも頼みようがない地域が広がる」

と懸念を表明し、

「東京に住んでいる人の感覚で全国制度をつくってもらっては困るという典型」

と小泉構想に釘を刺した。

日本型ライドシェアは、アメリカでの当初の失敗例を繰り返さない狙いで作られた制度である。だから小林さんは

「タクシー会社が管理しなければ需要と供給のバランスをとったり、乗客の安全を確保したりするのは難しいと思うのです」

という。だが、父親譲りの「既得権益打破」を掲げる小泉氏に通じるのかどうか。

「社会には必要な規制もあるということを小泉さんをはじめとした『ライドシェア勉強会』の方々にご理解いただければいいのですが」

ITという先端技術はいま、人手不足に悩む地方都市のタクシー業界にとって救いの神になりつつある。しかし、技術の進化は目覚ましい。さらに新しい技術、サービスに既存のタクシー業界が乗り越えられる日が来るのではないか?

一難去ってまた一難。小林さんの悩みは尽きそうにない。

写真=小林さんは桐生えびす講の世話人も務めている

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