地方都市のタクシー革命 沼田屋タクシー
第15回 認可

コト

桐生市交通ビジョン推進室から

「沼田屋さん、ライドシェアをやりませんか?」

と打診があったのは、軽井沢から戻った小林さん、下山さんがすっかり準備を整え、

「そろそろライドシェアの申請の準備をしようか」

と考え始めた2024年初夏のことだった。

実は桐生市役所も市民の足の確保に頭を悩ませていた。繁華街の飲食店からは

「夜はタクシーが来ないから客が減って、どの店もガラガラだよ。このままじゃ繁華街・仲町の灯は消えてしまう。何とかならないか」

との声が寄せられる。
知り合いの市民からは

「タクシーが来ないから飲みに出ることも出来ない。これじゃあ桐生は寂れる一方だ。市として対策はないのか」

という苦情が来る。

「夜中に急病で救急車を呼んだが、治療が済んで帰宅しようとしたらタクシーがない。仕方なく、歩いて帰った」

という笑えない話もあった。

桐生のタクシー不足は、それほど深刻の度を増していた。市民の足の確保は緊急を要する行政課題だった。だが、実情を調べれば、タクシーは運転手のなり手がなくて、車両はあっても動かせないのが現実だ。何が出来る?
だから桐生市交通ビジョン推進室にとっては、2023年暮れから始まったライドシェア解禁の動きは一条の希望の光だった。幸いなことに国の動きは速く、2024年春には東京、大阪などでライドシェアの試験運転が始まった。これを見た桐生市はすぐにライドシェア導入に向けて、関東運輸局群馬支局とライドシェア導入に向けた調整を始めていたのだ。
日本型ライドシェアはタクシー会社が管理主体にならなければならない。桐生市にライドシェアを入れるとすれば、沼田屋タクシーにやってもらうしかない。だから小林さんに打診したのだった。

運転手不足の切り札としてライドシェア導入の準備を重ねていた小林さんに否があるはずはない。

「はい、是非やりたいと思っています。うちの会社にも『どうしてタクシーが来ない? 私は沼田屋のタクシーをいつも使っていたし、お金もきちんと払っていたのに』などという苦情が寄せられています。謝りに伺って運転手不足の実情を説明してご理解を願っているのですが、このタクシー不足を解消するにはライドシェアしかないと思っているのは私も同じです」

交通ビジョン推進室の話を聞くと、市がまず申し入れをした方が、事業者が単独で申請するより早く認可が下り、しかもライドシェアの車を運行できる時間帯などの条件も緩くなるという。小林さんには願ったり叶ったりの話である。

「よろしくお願いします」

沼田屋タクシーの快諾を得て、桐生市はすぐに「自家用車活用事業」、つまりライドシェアを桐生市は導入する意向があると国土交通省関東運輸局群馬支局に申し入れた。タクシー不足の状況を調べる国の調査が始まった。ライドシェアはまだ全面的に解禁されたわけではない。住民の足を確保するために必要だと認められた地域にしか許されないのだ。時間帯別のタクシー注文件数、配車回数、車が足りずに客に断った件数などが調べられ、上限10台までのライドシェアなら許可するという回答が来た。
そして沼田屋タクシーは2024年9月4日、「自家用車活用事業(日本版ライドシェア)」の導入認可を申請した。10月18日、認可が下りた。

「ああ、これで何とかお客様の足を確保できる、とホッとしました」

小林さんは胸をなで下ろした。

「MiTT」は急遽、ライドシェアにも使えるように改良した。タクシー、ライドシェアのどちらかを客が選べるようにしたのである。
そして、ライドシェアの運転手の募集も始めた。50〜60人の問い合わせがあり、面接などを経て16人を採用した。サラリーマン、自営業者、定年退職者、元タクシー運転手など職種は様々である。仕事の繁閑を考慮してこの16人のローテーションを組んだ。1人の就業時間は①午前7時から正午まで②午後6時から翌日午前3時まで③午後10時から翌日午前3時まで、の3通り。週に2、3回の勤務で時給は1200円〜1500円である。

2024年11月29日、沼田屋タクシーが運営する「MiTT」が稼働した。北関東では初めてだった。そして2025年12月現在、沼田屋タクシーはライドシェアを管理する北関東で唯一のタクシー会社である。

写真=桐生市交通ビジョン推進室

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