新しいシステムには初期不良が付き物である。いざ使ってみると、思いもしなかったことが起きるのだ。
「MiTT」はタクシーを呼んだ客の一番近くにいる車両を迎えに出す。そのため、いま客を乗せている車両に新しい仕事が入ることもある。その仕事を受けるかどうかはその車両の運転手に任せている。いま乗せている客の目的地から判断して
「ちょっと無理だ」
と思えば、車に設置したタブレットで<拒否>ボタンにタッチすればいい。行けると判断すれば、<承認>ボタンにタッチする、1台の車両は3件までの注文を受けることが出来るようになっており、その際、次の客には
「お迎えには30分ほどかかります」
というメッセージが届く仕組みになっている。現実には10分で到着することもあれば、40分化かってしまうことがあるかもしれない。まだ苦情は受けていないが、「30分」が適当なのかどうか。これは検討課題で、経験を重ねて調整するしかない。
現実に困ったのは、車に積むタブレットの故障だ。2025年の夏、桐生は酷暑に見舞われた。日本観測史上歴代1位の41.2度という最高気温を記録したのは8月5日のことである。
「やっぱり、暑さがこたえたんですかね。タクシーに積んでいるタブレットのリチウムイオン電池が膨張して使えなくなる事故が6件も相次ぎまして」
運転手が車を降りる時は、タブレットはサンバイザーの間に挟ことにしている。そのタブレットのバッテリーが次々に膨れ、ケースを押し上げて隙間まで出来てしまったのだ。もちろん、そうなったタブレットは作動しない。
タブレットも機械である。故障することもあるだろうと、沼田屋タクシーは70台のタブレットを用意していた。1台約3万円である。だから、予備のタブレットをタクシーに積んで急場をしのいだのはいうまでもない。
「それで、故障してしまったタブレットを修理に出そうとしたら、1台2万円かかるというんです。新品の価格と大差ないんですよ。来年だって酷暑になるかもしれないし、毎年何台ものタブレットを修理に出すことになれば経営にも響きますからねえ」
スマートフォンの充電用にモバイルバッテリーを持ち歩く人は多い。そのモバイルバッテリーの火災事故が山手線の車内で発火し、乗客5人が怪我をしたのは2025年7月20日のことだった。モバイルバッテリーに限らず、リチウムイオン電池を使っているスマホなどの発火事故は年々増え続けており、2020年から25年までのわずかな期間に1860件にも上っている。
「当社の場合、火災事故にまで至らなかったのが不幸中の幸いでした」
しかし、次々にタブレットが使えなくなっては仕事に響く。小林さんはいま、新しいタブレットを探している。
「リチウムイオン電池が悪さをするのだから、じゃあ、バッテリーを積まずに車から給電するタブレットにしたらいいのではないかと考えました。ところが、そんなタブレットってないんですね」
やっと見つけた。ある国内メーカーが近く、そんなタブレットを売り出すらしい。
「それを導入しようと思っているのです。価格が安ければいいのですが…」
この2件の“事故”を除けば、「MiTT」は順調に滑り出した。いまは「MiTT」をスマホのLINEで友達登録して使ってくれる人が1人でも多く増えるのを待っている。
写真=リチウムイオン電池が膨らんで故障したタブレット
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