地方都市のタクシー革命 沼田屋タクシー
第7回 打つ手

コト

小林さんは二正面作戦を迫られた。運転手不足の問題とタクシー無線の問題である。
小林さんはやみくもに動き始めた。これぞと思う知り合いに

「『GO』みたいな配車アプリを作りたいんだよね。それに、今のタクシー無線に代わる配車システムも欲しい」

と声を掛け始めたのである。配車アプリを使ったからといって運転手不足が解消するわけではない。しかし、業務の合理化にはつながるはずだ。それに、いずれは必ず必要になる。とにかく、いま出来ることから始めるしかない。

「群馬大学に頼りになりそうな教授がいる。彼は大学の研究と町場の企業のニーズを結びつける仕事をしている。一度会ってみたら」

と教えてくれたのは、そんな知り合いの1人だった。2022年の暮れのことである。紹介するのは群馬大学研究・産学連携推進機構の教授だという。大分大学から移籍してきて、研究室は前橋のキャンパスにある。知り合いが連絡を取ると、桐生まできてくれた。群馬大学理工学部の一室で会った。

地方のタクシーは流し営業をしないから、都会向けに作られた「GO」などの配車アプリは使えない。しかし世の流れは配車アプリにあり、何とか桐生のような地方でも使える配車アプリを作りたい。それに、タクシー用の無線は市場規模が小さくなっているためメーカーが近く撤退するかも知れないので、これに変わるものを準備しておく必要がある。地方都市のタクシーが抱えるそんな問題を解決できるシステムを作りたい。いまのIT技術なら出来るのではないですか?
これまで考えてきたことのすべてを説明した。

「そうですか。できることならご協力したい。どうですか、大学との共同研究ということにしませんか? そうすれば補助金も期待できるのでご負担も軽く済むと思います」

いいことずくめの話だった。期待が膨らんだ。

ところが、しばらくするとやや期待外れの回答がきた。

「申し訳ありません。調べてみたのですが、そんな研究をしている人材が大学にはいないのです。そこで、ですが、私が個人的に知っている東京の会社があります。システム開発をしており、ひょっとしたらご期待に沿えるかもしれません。そうなると補助金は期待できませんが、どうしましょうか。お話を繋ぎましょうか?」

その頃までに小林さんは、いろいろな人に話を聞いていた。配車アプリ、無戦に代わるシステムを開発するには少なくとも1億円ぐらいかかるらしい。1億円。途方もない投資に思えた。だが、伊達や酔狂でそんなものを欲しがっているのではない。沼田屋タクシーという、桐生のタクシー会社が生き延びるためにはどうしても必要だと思われる投資なのだ。小林さんに迷いはなかった。

「お願いします」

それなのに、話はうまく進まなかった。紹介された会社のトップと何度か意見を交換したが、やがて連絡が来なくなった。田舎の小さなタクシー会社だと見くびられたか…。

小林さんは経営者である。群馬大学の教授に相談するだけでなく、打てる手はすべて打っていた。地元のIT企業、両毛システムズに打診したのも同じ頃だった。しかし、ここも

「当社ではお引き受けしかねます」

という回答しか戻ってこなかった。

小林さんのもうひとつの手は、前橋市のIT企業で働く親戚だった。彼にも同じ話を持ちかけていた。

「それは面白い。千葉にいる知り合いならできそうだから話してみる。私もその開発に参加したい。しばらく時間が欲しい」

というので待った。だが、なかなか返事が来ない。電話をしても

「いま、こちらの仕事に追われていて、なかなか身動きが取れない」

という。打てるだけの手は打ったつもりだが、なかなか先に進まない。

「なるほど、そんなことをお考えになっているのですか。だったら、いい会社が地元桐生にあるのですが、ご存知ありませんか?」

そんな情報を教えてくれたのは横浜銀行桐生支店の支店長だった。主取引銀行ではないが、ときどき雑談を交わす仲だった。

「CICAC(シカク)といいましてね。東京の渋谷から桐生に引っ越してきた会社なんです。実績もありますし、小林さんがお考えになっていることを実現してくれると思うのですが、何だったらご紹介しましょうか?」

瓢箪から駒、とはこういうことを言うのだろう。何も期待せず、抱えている悩みをついつい口にしていたら思わぬところから援軍が現れた。銀行の支店長が推すのだからしっかりした会社なのだろう。しかも、地元桐生の会社なら緊急時の対応にも心配はないはずだ。

「是非ご紹介ください」

歯車が、はじめてカチリと音を立ててひとつだけ回った。

写真=小林さんはここ(群馬大学研究・産学連携推進機構)で群馬大学教授と会った

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