「TAXI GO」
「S.RIDE」
「Uber」
「DiDi」
東京を歩くと、こんな文字を車体に大書したタクシーがひっきりなしに目につく。すべてスマートフォンでタクシーが呼べる配車アプリのブランド名である。都会でいま、このサービスが急速に普及し始めた。公正取引委員会の調べだと、東京23区ではすでにタクシー利用の約4分の1が配車アプリからになった。技術の進化とそれを受け入れる社会の変化は速い。タクシー利用のほとんどがスマホからになる日も遠くないと思わせる勢いだ。
だが、いつの間にこんな世の中になったのか? 少し歴史を遡ろう。
スマホのアプリでタクシーが呼べるサービスは2010年5月、アメリカ・サンフランシスコで産声を上げた。UberCabという。スマホにUberアプリをインストールすると、簡単な操作で一番近くを走っているタクシーが来る。スマホには到着までの予想時間も表示される。簡単で便利。いらいらしながらタクシーを待たずに済む。流しのタクシーを拾うか、タクシーの待機場所まで行くか、それとも電話で配車を頼むかしかなかったタクシーの利用法をIT(Information Technology=情報技術)が激変させた。
Uberアプリを開発したのは、サンフランシスコに本社を置く「Uber Technologies, Inc.」である。アプリを開発した彼らは、だが自らタクシー会社を経営するのは避けた。いくつものタクシー会社と利用者を繋ぐマッチングサービスに徹した。だからUberアプリでタクシーを呼べばどこの会社の車が来るかは分からない。Uber社はUberのアプリを利用して客が乗車するたびに乗車料金の一部を手数料として受け取る。最初にこのサービスを使い始めたのは地元のサンフランシスコで高級なリムジン(大型高級車)を持つ会社やプロの運転手だった。
時代の流れをいち早く読み取るのはビジネスの鉄則だ。翌年にはニューヨーク、シカゴにUberのサービスが広がった。そして2012年4月、シカゴで普通のタクシーが呼べるようになった。リムジンを使える特定の富裕層だけでなく、広く大衆への普及が始まった。
Uberの成功に追随者が相次いだ。2012年に同様のアプリでサービスを始めたアメリカ生まれのLyft、中国発のDiDiなどだ。配車アプリの利用はウナギ登りに広がった。瞬く間にヨーロッパ、アジア、中南米など世界中に普及し、いまでは70以上の国で利用されている。2025年現在、毎月の利用者は8億人を超すそうだ。
日本もこの潮流に決して遅れたわけではない。2011年、東京に本社を置くタクシー会社、日本交通が「全国タクシー配車」というスマホ用のアプリを独自に開発、全国の関係会社でその年12月から使い始めた。シカゴより先、世界の先陣を切って普通のタクシーがスマホで呼べるようになったのである。
ところが、あまり普及しなかった。そのころ日本ではスマホがあまり行き渡っていなかったこともあるが、大きかったのはアプリの機能が見劣りしたことだ。客から一番近い車両を割り当てることができず、使い勝手が悪かったのである。
日本で本格的な普及が始まったのは2018年ごろだといわれる。この年、「Uber Taxi」や「DiDi」が日本市場に本格的に参入し、「全国タクシー配車」とシェア争いを始めた。各社は割引キャンペーンなどを繰り広げ、認知度が急拡大した。その中で、「全国タクシー配車」のアプリは改良され、機能が高度化した「GO」に進化した。日本人はMade in Japanが好きらしい。日本の交通事情に合わせた機能を備えたという国産アプリ「GO」は、いまでは全国46都道府県の都会でサービスを展開、配車アプリの7割から8割の市場占有率を誇るといわれる。
だが、「GO」はタクシーの流し営業が中心の都会向けに開発されたアプリである。客から一番近くを走行中のタクシーと客を結びつける。流し営業をしない桐生のような地方都市では、タクシーは決められた待機場所で客のお呼び待つから、客から一番近いタクシーは複数台いる。そのままでは地方都市のタクシー配車には使いにくい。それに、「GO」はタクシーと客を直接結びつけるマッチングアプリだから、会社に運行記録が残らないのも考えものだ。
「だったら、自力で地方都市用の配車アプリを開発するしかない」
そう考えたタクシー会社経営者が桐生にいた。沼田屋タクシーの小林康人社長である。小林さんは2022年末から、地方都市の実情にあった配車アプリを開発してくれるIT企業を探し始めた。
後に詳しく書くが、東京、前橋、千葉とアプリを開発してくれる会社を探し回った。その結果、最終的に開発を依頼したのは桐生にある「CICAC(シカク)」だった。この会社のアイデアで、思ったより安くできた。安く、とはいえ約3000万円である。資本金2000万円の中小企業にとって決して軽い投資ではなかった。
こうしてでき上がったMade in 桐生の配車アプリを「MiTT(ミット)」という。「Mobility(移動)」と「IT(情報技術)」を組み合わせた造語である。
2024年11月29日、「MiTT」が動き始めた。
小林さんの地方都市のタクシー革命が始まった。
写真=小林康人社長
