次は5万円の手ぬぐいだ。図柄は風神雷神図。これは捺染と手描きを組み合わせてみよう。
小山さんにはあるアイデアがあった。捺染の技の1つ、「抜染」を使って風神・雷神を描くのである。「抜染」は半天の背中にある「背紋(せもん)」などを浮き出させるのに使われる伝統の捺染法だ。「背紋」の部分にはいっさい染料を置かない。周りだけ染めるから「背紋」が浮き出る。そのため、「背紋」の部分にはあらかじめ特殊な糊(抜染糊、防染糊、などという)を捺染で置く。それから全体を染め、染め上がったら水洗いする。そうすると糊が溶け、その上の染料と一緒に流れ落ちるので、「背紋」の部分だけが染まらずに残る。
小山さんはまず、風神、雷神を描いたシルクスクリーンで抜染糊を捺染した。その上に、風神・雷神の背景を描いていく。使ったのは黄色、薄い茶、濃い茶、黒、微妙な緑、赤、青の7色。抜染で白くなったものを含めれば8色である。色の置き所を計算し、大胆に、しかし繊細に筆を運んだ。風神、雷神は真っ白ではない。部分的に黄色や青、黒が入り込み、見事なアクセントになっている。タイトルは「風伯雷公」。
「神経を張りつめて、1時間ほどかかりました。糊を洗い落としてみて、自分でも納得できる仕上がりになりました。これまで作った中で最高じゃないかな、って。本当は手元に置いておきたかったのですが、そうすればもう1本作らないといけない。泣く泣く出品しましたが、心のどこかで『売れないでくれ』と願っていました」
最後に染めたのは3万円の2本である。小山さんは再びアインシュタインに題材を求めた。
「挫折と挑戦」
Anyone who has never made a mistake has never tried anything new.
(一度も失敗をしたことがない人は、一度も新しいことに挑戦したことがない人だ)
背景は捺染した。薄いオレンジで全面を染め、いくつもの直線を濃いオレンジでその上に重ねた。ここまではイラストレーターで作ったデザインである。そしてその上に、絵筆に含ませた黒の染料でアインシュタインの言葉を書いたのである。
写真をよく見ていただきたい、大文字と小文字が不規則に入り交じっているのがお分かりだろう。英語は普通、こんな書き方はしない。まさか、アインシュタインの常識破りな知性にならったのでもないだろうが…。
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| 「挫折と挑戦」 |
「何故かって? その時の気分、としか言い様がありません。あ。これ、私の座右の銘なんですよ」
そしてもう1つは
「事実は真実の敵なり」
Facts are the enemy of truth.
である。科学の世界では、目の前にある数値や事象(事実)に目をとらわれすぎると、それらを一貫して説明できる理論(真実)を見失いがちになる、ということなのだろう。アインシュタインは実験データから法則を導き出すのではなく、まず頭の中で「真実」を考え出し、現実の事実がそれに追いついてくるのを待ったといわれる。一般相対性理論を発表したあと、その理論を否定する観測結果が出たことがある。その時彼は、
「理論は正しい。もし観測結果が違うなら、それは気の毒なことだ」
と平然としていたそうだ。小山さんがアインシュタインに惹かれるのも、毅然として我が道を信じるアインシュタインである。
「これは抽象的で論理的な幾何学模様にするしかないな」
小山さんはそう考えた。デザインはイラストレーターで起こした。あとは染めるだけだ。
捺染を主体にした。まず、薄いベージュを下地として染めた。そして「のこぎり屋根」と呼ばれているジグザク模様のパターンが入ったシルクスクリーンを手に取った。
だが、素直に捺染するのではない。こいつでひと工夫する。それが小山さんの計画だった。このパターンを約5cmずつずらしながら、色を変えて3回捺染する。使った色はグリーン、オレンジ、ブルーである。直線らしいものと複雑なジグザグ線が絡み合った手ぬぐいが姿を現した。アインシュタインの頭の中はこんな構造になっていたのだろうか?
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| 「事実は真実の敵なり」 |
そして仕上げに、手描きで小さくネームを入れたのは、心のどこかで
「私は作家だ」
と宣言したかったのだろうか。
写真=風伯雷公


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