履きやすい靴、とは? クイーン堂シューズ 第2回 足に靴を合わせる

筆者はバリー(Ballyの靴を買ったことがある。もう40年近く前、仕事で香港に出張した時だ。
バリーはスイス高級靴メーカーである。とある大臣の定例記者懇談会で彼がバリーのハーフブーツを履いているのを目にした。

「金持ちはこんな靴を履くのか」

成功者の香りをその靴は放っていた。憧れが芽生えた。

「一生に一度はあんな靴を履いてみたいものだ」

だが、日本ではとてつもなく高価である。1足10万円では手に入らない。一介のサラリーマン記者には手が出ない。半ば諦めていた。

ところが香港では高くなかった。日本円で確か2万円強だった。ここで買わねばバリーの靴なんて一生買えない。心が動いた。

靴のサイズには足長(つま先からかかとまでの長さ)しかないものと思い込んでいた。私のサイズ、27.5cm(欧州の表示では43⅓)を出してもらい履いてみた。右足の甲の部分が窮屈で痛い。それを告げたが、店員は

「革は履いているうちに伸びる。問題ない」

という。そういうものか。筆者は財布のヒモを解いた。

帰国して早速履き始めた。痛い、甲が痛い。靴は朝家を出るとき履けば、普通脱ぐのは帰宅してからである。だが、それが待てないほど甲が痛む。伸びるはずだった革は、何度履いても伸びてくれない、だから履くたびに足の甲が傷む。我慢できないほど痛む。

靴の幅を広げる器具をDIYの店で買ってきた。履いても伸びないのなら器具を使って伸ばそうと思った。器具を靴の中に入れてセットして数日経つと、なぜか靴の底が一部剥がれていた、接着剤で接着しようとしたが、着かなかった。これでは履けない。大枚を投じたバリーの靴はゴミ箱に放り込むしかなかった。

靴には足長のほかに、足囲(親指、小指のそれぞれ付け根にある出っ張った部分の周囲。3E、4Eなど)というサイズがあるのを知ったのはその後のことだった。そして、欧米人の足は細く、2Eが標準なのだそうだ。私の足は3E、ないしは4Eである。バリーの靴は私の足には細すぎたらしい。

人の足は百人百様である。靴箱に表示されているのは足長、足囲程度だが、これだけではあなたの足にぴったりの靴を見つけることは出来ない。右足と左足だって、実は同じサイズというわけではない。右は27cmで入るのに、左は27.5cmが欲しいということだってある。だからといって、同じ靴の27cmと27.5cmを買って半分は捨てる、などということをする人はまずいない。

親指が一番長い足を「エジプト型」という。人さし指が親指より先に出ているのは「ギリシャ型」だ。「正方型」は、足指の長さがほぼ同じである。それぞれの「型」に合った靴を選ばないと歩くたびに我慢を強いられることになる。いや我慢ですめばいいが、足全体の変形、爪甲鉤彎症(そうこうこうわんしょう=足の親指の爪が厚くなり、濁り、表面がでこぼこし、前方に鉤のように彎曲する状態)、巻き爪、陥入爪(かんにゅうそう=爪の先端が周囲の皮膚に刺さり、炎症や痛みを引き起こす状態)だって引き起こしかねない。

くるぶしの位置も人によって違う。低い位置にくるぶしがある人がやや深目の靴を履くとくるぶしが靴の端に当たって痛み始める。

百人百様の足にぴったりとフィットし、快適な歩きを生み出す靴を選ぶのは、実は大変に難しいことなのだ。そんなことを知ったのは、多くの女性客を引き寄せるクイーン堂シューズの秘密を知ろうと取材を始め、小泉充さんに教えてもらったからだ。

だが、足が千差万別であることを知っても、既成靴なのに履き心地を高く評価されているクイーン堂シューズの秘密を知ったことにはならない。

小泉さんが発信するSNSには

「モードな靴、素敵なのに足に合う靴を見つけられます。フィッティングもさすが。他で買っても今一なことが多く、結局こちらへ戻ります。お勧め」

などという投稿が絶えない。繰り返すが、クイーン堂シューズはメーカーが作る既成の靴を売る靴屋さんである。この店には魔法使いでも住み着いているのか?

写真=クイーン堂シューズの店内

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