履きやすい靴、とは? クイーン堂シューズ 第12回 理想の靴

では、小泉充さんが考える「理想の靴」とはどんな靴なのだろう?

「靴屋がいうのも変ですが、実は足に一番いいのは裸足なのです」

裸足が一番いい? 充さんの説明を聞いて、納得した。

①足の裏には多くの神経が集まっている。裸足で歩くと脳と体のバランスが鍛えられる
②靴のクッションに頼らないため、体幹の筋肉や足指を使ってバランスをとり、姿勢が良くなる③筋肉、腱・関節が鍛えられ、疲れにくい足になる
④足の裏へのマッサージ効果があり、血行が促進される

なるほど、そうかもしれない。考えてみえれば人類の祖先、類人猿が生まれたのが約700万年前。私たちの祖先であるホモ・サピエンスは約30万年の歴史を持っている。そして、何らかの履き物を使い始めたのは1万年〜4万年前といわれている。だが、履き物の利用と同時に足の指、特に小指が退化し始めたという。裸足で歩くと小指が発達するため、その退化が履き物利用の証拠とされるのである。
人類の長い歴史を考えれば、裸足で歩くことに最適化するように進化した私たちの足が、履き物で守られるようになったのはほんのわずかな期間でしかない。靴を履くことに最適化した足を私たちはまだ持ち合わせていないようなのだ。

だが、裸足で屋外を歩くのは危険を伴う。数万年前も石や木の枝など、足を傷つけかねないものは路面にいくらでもあったはずだ。だから私たちの祖先は足を保護する履き物を考え出した。最も古い履き物は日本のわらじのように植物繊維で作られたと考えられている。そして5000年ほど前、足全体を包む靴の原形が生まれ、現代の靴の直接の祖先は11世紀から15世紀にかけてーロッパで形作られた。
靴とは、足の健康と足の保護の妥協の産物ともいえる。

では、靴なしでは暮らせない私たちにとっての理想の靴とはどんなものなのだろう?

「靴に包まれた足が、まるで裸足で歩いているように感じられる靴だと思います」

と充さんはいった。
いわれて筆者はクイーン堂シューズの店内で靴を脱ぎ、素足で歩いてみた。素足で歩くとはどういうことなのかを試してみたのだ。
踏み出した右足は、自然に足裏全体で着地した。

「足裏全体で着地すると、着地の衝撃が分散されます。膝などへの衝撃が一番少ない歩き方なのです」

次は、左足を踏み出した。その時、右足は指全体を使って床を蹴り、3つのアーチは伸びていた。

「それが足の自然な動きです。足にそんな動きをさせるためには、まず靴が足全体にピッタリとフィットして、中で足が滑ることを防がねばなりません。それでも、指先には指が自由に動く隙間がないと指の踏ん張りが出来にくくなります。足裏のアーチが伸び縮みしますから、靴底には足の屈曲に従って曲がる柔軟性が必要です。柔軟といっても、柔らかすぎてふかふかな靴底がダメなのは前にいった通りです。そんなことを考えながらクイーン堂シューズは靴を仕入れ、革を伸ばし、詰め物をしてお客様一人ひとりの足に合う靴をご提供しているつもりです」

こんな努力が支えるから

「こちらのお店に伺えば、間違いなくセンスの良い靴や鞄が手に入ります。足の形も見て靴を見立ててくださるので靴擦れの心配もありません」

などという投稿が寄せられるのである。

だが、クイーン堂シューズの魅力は靴の履き心地だけなのか?
前橋市から、大学生の娘さんを連れてやって来た菅原典子さんの話を聞けたのは2025年4月6日だった。生まれ故郷の太田市で働いていた20代からクイーン堂シューズの魅力にとりつかれ、いまでも年に1、2回は訪れるという。

「履き心地は当たり前なのよ。ほかの店で買うと、ちっとも足に合ってくれない。だから、この店で買った靴は捨てられないの。25年前に母から買ってもらった靴もまだ取ってある。靴のことならこのお店にお任せ、というところです。だから娘を連れてきました」

やっぱり履き心地?

通りからの視線を遮るついたての裏にはいつも花が飾ってある

「それだけじゃありませんよ。最初は何となく入ってみたくなる店だな、ってフラッと入ったんです。ほら、入り口のついたて。歩いている人から店の中が見えなくなってるでしょ。あれがとっても素敵で。ああ、このお店だったら通行人の視線を気にせずに靴が選べる、ってね」

そのついたては1990年ごろ、琛司さんが東京の設計事務所に設計を依頼して作ったものだ。せっかく店に足を運んでくれたお客様に、人目を気にせずに靴を選んでもらいたい。

人目を気にせず靴を選べる店。靴を売る以上のものを届けようとする気遣いも、クイーン堂シューズの魅力を支えているのである。

写真=靴底にこのような屈曲性があると、足の動きが素足に近くなる

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クイーン堂シューズ
〒376-0031
桐生市本町4丁目74
電話:0277-44-4654
インスタグラム:https://www.instagram.com/queendo_king/
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履きやすい靴、とは? クイーン堂シューズ 第11回 インソールは不要

☆クッション性

 「膝に優しい」

などの謳い文句でクッションの良さをアピールする靴がある。確かに、柔らかい靴底は足を地面に着ける時の衝撃を和らげる効果がある。素足で床を歩いてみれば、1歩足を踏み出すごとに膝が受ける力を実感できる。膝にはこの衝撃を吸収するための軟骨があるが、高齢になれば長年の使用で磨り減ってしまうというから、衝撃を和らげてくれるクッションのいい靴は、確かに膝に優しいといえる。

だが、小泉充さんによると、これも考えものだという。

クッション性がいいと歌う靴の多くは、フワフワする柔らかい素材を靴底に使っている。極端な例としてスポンジを考えてみよう。スポンジは上下だけでなく、あらゆる方向に伸び縮みする。靴底に使う柔らかい素材もスポンジ同じようにあらゆる方向に伸び縮みするため、足下が常にゆらゆらする。そのため、いつも足の筋肉が緊張してバランスをとることになり、疲れてしまうというのだ。

「それに、地面からの衝撃を少なくしすぎると、骨に悪いという研究結果も見たことがあります。だから、適度なクッション性を持つ靴底ならいいのですが、柔らかい素材を厚めに使ってクッション性の良さを歌っている靴は避けたほうが無難です」

☆インソール

インソールとは靴の中敷きのことである。
充さんはインソールメーカーの講習会にも参加したことがある。だが、客にインソールを勧めようとは思わない。

インソールは足と靴との一体感を高めるといわれる。だが、それが目的なら、クイーン堂シューズには注文靴工房だった時代からの技がある。インソールに頼る必要はない。むしろ、一人ひとりの足に合わせてソールの下に詰め物をするクイーン堂シューズの方が、靴との一体感は勝るはずだ。

X脚、O脚の治療にインソールが使われることもある。かかとの部分にX脚の人は足の内側を高く、O脚の人には逆の傾斜をつける。この傾斜で矯正しようというのである。

「しかし、これは骨格を変えようということです。無理に骨格を矯正すれば膝や足、足の付け根、腰などに悪影響が出る恐れがあります。足はまっすぐになったけど、ほかに障害がたくさん出た、というのでは本末転倒ではないでしょうか」

ハイアーチとは、土踏まずのカーブがほかの人たちより深い足である。日本語では凹足(おうそく)という。扁平足の逆の症状である。足裏全体で着地できないため、かかとと足の前部に負担がかかり、疲れやすかったり、足が痛んだりする。その治療の1つに土踏まずの部分を高くし、ハイアーチになった土踏まずに密着するインソールの使用があるのだが、これにも充さんは否定的だ。

「インソールを使っても、効果があるのは靴を履いている時だけです。しかも、コルセットをはめているような状態ですから、使い続ければ周りの筋肉は衰えます。さらに、靴を脱げば土踏まずの支えがなくなるので症状が悪化するのではないかと思うのです。もっとも、すでに痛み出しているハイアーチなら、痛みを和らげるためにインソールを使うのはありだと思いますが」

充さんが唯一客に勧めるインソールは、足の前の方にある横アーチの中央部分を持ち上げるものだ。

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ここを少し持ち上げてやると、靴の中で指が自由に動くようになり、歩行が楽になるのだという。

「もっとも、当店でお買い上げいただいた靴なら、ソールの下に詰め物をしてインソールを入れたのと同じ形状にできますので、こんなインソールをお買い上げいただく必要はありませんが」

それでも、クイーン堂シューズにはインソールが置いてある。客に勧めず、買ってもらう必要もないのに、どうして?

「中には、どうしてもインソールが欲しいとおっしゃるお客様がいらっしゃるので、靴屋としてやむを得ない品揃えです」

写真=細い足、頑丈な足それぞれに合う靴がある

履きやすい靴、とは? クイーン堂シューズ 第10回 足を守る

☆かかとがぴたりとフィットする

足の形は千差万別であるとは何度も書いた。その足を外形でおおまかに分ければ、太く力強い足と、細く繊細な足ということになる。そして、その両者で選ぶべき靴が異なる。特に靴のかかとの形状である。

足のかかとを包み込む靴の部分をカウンターという。そして、このカウンターには柔らかいカウンターと、固くしっかりしたカウンターがある。そのどちらを選ぶべきなのか。

太く力強い足の持ち主は、ぴったりしてさえいれば、どちらを選んでも構わない。慎重にカウンターを選ばねばならないのは、細く繊細な足の持ち主だ。

「はい、そのような足をお持ちの方は、出来れば固いカウンターの靴をお選びいただきたいと思います」

細い足の持ち主は、足首も細く弱いことが多い。そんな足で柔らかいカウンターの靴を履くと、カウンターがかかとを固定してくれないため、段差を踏み間違えた時などにかかとが一方に滑り、足首をひねってくじきやすいのである。固いカウンターの靴ならかかとをしっかり固定するので、その恐れは少ない。

そう説明しても、柔らかいカウンターの靴のデザインに惹かれ是非買いたいという客もいる。そんな時充さんはソールに詰め物をする。靴の中の足を上に持ち上げ、甲の部分でしっかりフィットさせるためである。

「こうすれば、くじく恐れは少なくなります。それでも固いカウンターの靴に比べれば、やはり危険度は大きい。本当は固いカウンターの靴をお買い上げいただきたいのですが…」

☆縫い目・継ぎ目に注意せよ

 人の足は思った以上に敏感である。靴を履いた時にわずかでも違和感があると、やがて不快感から痛みに変わることがある。

「注意しなければならないのは、靴の中の縫い目です。それがわずかでも出っ張っていると、足は敏感に感じてしまいます。もちろん、当店ではそんな靴は最初から仕入れませんが」

スポーティに見せようという靴には、帯状の革を縫い付けたものがある。このように、部分的に革が二重になっている靴も要注意だ。当然のことだが二重になっているところは革が分厚くなり、そこだけ伸びが悪いからだ。

「二重になっていない部分は足の形に従って革が伸びます。ところが2重になっていることころは伸びてくれず。そこだけ革のベルトでしめあげたようになってしまい、足を傷めてしまうことがあります」

特に、親指と小指の付け根より先が2重革になっている靴は注意したほうがいいと充さんはいう。
クイーン堂シューズにも、そんな靴は置いてある。スポーティな靴を好む客のためだ。

「そんな靴は試し履きをしていただいた上で、足の形に合うようにストレッチャーで2重革の部分を伸ばして差し上げるようにしています」

☆サンダル

 蒸し暑い日本の夏は、足も出来るだけ涼しくしてやりたい。夏場にサンダルを履く女性が多い理由である。だが、サンダルもよく選ばないと、足のトラブルを抱えることになる。
いけないのは、足より大きめのサンダルだ。ややもすると、足が前に滑り、指がサンダルの前に出る。

「そんなサンダルを履いていると、足を縁石や階段にぶつけ、けがをしてしまうことになります」

では、指が前に出なければいいのか。

「いや、サンダルもできれば足が滑らないように固定してやりたいのです。甲の部分で固定されないと、足が前に滑って狭くなった先の方で指が締めつけられます。そすれば、外反母趾などを引き起こす恐れがあります」

そんなわけで、出来ればストラップ付きのサンダルを選んで欲しい、というのが充さんの意見である。ストラップは足が滑らないように固定してくれるからだ。

写真=クイーン堂シューズお勧めのサンダル。足が前に滑らない形状で、ストラップ付きもある

履きやすい靴、とは? クイーン堂シューズ 第9回 フィット

では、注文靴を作る職人だった曽祖父、祖父から引き継いだ経験知の上に勉強を重ねた小泉充さんはどんな靴を客に勧めるのだろう?
せっかくの機会である。

「街の信頼できる靴屋さんで靴を買うって、なんだかいいでしょう。ここ数年私のパンプス系の靴はすべて桐生のクイーン堂シューズさんで購入しています。この靴は気に入りすぎてリピート3足目」

などという声がSNSで寄せられるクイーン堂シューズのノウハウを充さんに聞いた。クイーン堂シューズまでは遠すぎて足を運べないあなたに、靴を選ぶ際の参考にしていただければ幸いだ。

☆足にぴったりフィットし、押さえ所がしっかりしている靴

 足が靴の中で勝手に動き回らない靴を選ぶことが基本である。そのためには、足を靴の中にしっかりと固定しなければならない。紐靴なら、足が痛まない程度に紐をしっかり結ぶことである。
ところで、女性が好むパンプスは、足を固定するポイントが2つしかない。下図のように側面と甲の部分である。

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この2つが足にぴったりフィットしなければならない。スカスカだと、かかとが抜けやすくなる。勢い、足裏全体で体を支えるのではなく、足の先とかかだけがその役割を引き受けることになる。指とかかとに負担がかかり過ぎ、様々な足の病を引き起こしかねない。

「それだけではありません。歩くたびに靴が脱げそうになるので、スリッパでも履いているかのように『脱げないように』歩くことになります。極端に言えば、靴を引きずって歩くことになる。そうすると、どうしても膝が伸びず、歩く姿勢が狂います。それだけなら見た目の問題にすぎないかもしれませんが、不自然な姿勢で歩き続けることになるので、やがては腰痛を引きおこす恐れがあります」

では、充さんはどんなパンプスを客に勧めるのか。

「まず、何足かのパンプスを履き比べていただきます。もちろん、その中に『この靴が合うはずだ』という1足を入れておきます。ポイントは、歩くたびに脱げそうにならないか、靴の中で足が滑らないか、の2点です。時折、歩くたびにかかとが靴から抜けかけている方を見かけますが、あれは靴が合っていません」

しかし、デザインも靴選びの重要なポイントである。足にフィットしていない靴を客が欲しがったらどうする?

「その場合は、まず詰め物をします。靴の特に緩い部分にクッションを入れて履いていただきます。それで修正が出来れば、ソールをはがしてクッションを下に入れ、ソールを貼り付けてお買い上げいただきます」

クイーン堂シューズに伝わる経験値を生かすわけだ。
それでも靴が足に合わなかったら?

「その際は、同じようなデザインでストラップがついたものをお勧めします。ストラップで足を固定して、足が靴の中で動き回るのを防ぐわけです」

☆チャックが斜めの靴を

スニーカーやハーフブーツには、履きやすくするためにチャック付きのものがある。履く時にチャックを空け、足を入れてチャックを閉める。

「そんな靴では、必ずチャックが斜めになったのを選んでください。上下一直線になっているのはよくありません」

と充さんは言う。
斜めになったチャックを閉めれば、靴は足の甲の部分をフィットさせ、足が靴の中で滑ることを防いでくれる。しかし、縦一直線のチャックは閉めてもどこも締めつけてはくれない。よほど足にフィットした靴でない限り、足が滑ってしまう恐れがある。

充さんはそう考えて客一人ひとりの足にぴったりの靴を勧めるのである。

写真=チャックが斜めになった靴

履きやすい靴、とは? クイーン堂シューズ 第4回 輸入靴

クイーン堂シューズを女性靴の専門店にする。大胆な発想だった。琛司さんは自分で選び取った道を勢いよく駆け出した。鋭いファッション感覚を持っているのが女性なら、その女性たちに選ばれ、喜ばれる魅力的な靴を仕入れなければならない。

琛司さんは妻の民子さんを伴って問屋を歩いた。女性が欲しくなる靴を選ぶには、女性の目線が必要だ。こうしてクイーン堂シューズの棚を、優雅で洗練された女性靴が埋め始めた。

そして琛司さんはもう1つ手を打った。フランス、イタリア、ドイツ、スペインなどからの輸入靴を仕入れ始めたのである。
日本製の女性靴は1万円内外が相場だった。しかし、フランス、イタリア製の靴は1足2万円から3万円はした。そんな高価な靴が本当に売れるのか?

「当時の桐生には勢いがありましたしね。桐生の経済力なら必ず売れるはずだ、と思っての決断でした。それに革製品には輸入枠があって、輸入商社は売れ行きにかかわらず一定の数量を輸入しないと、翌年から枠を減らされました。それが分かったから『私の店で売らせてもらうよ』とその商社に申し出たんです。喜んでくれましてね。だから有利な条件を出してもらえたんです。それも踏み切った理由の1つでした」

織都桐生が衰退の道を転げ落ち始めたのは1990年前後だと桐生の人たちは口をそろえる。琛司さんが女性靴専門店にしたのは1965年前後である。桐生にはまだ繁栄の余韻がたっぷり残っていた。値札を見ることもなく「すてきな靴」を買うことができるお洒落な女性たちがたくさんいたのである。美しい織物を生み出す町桐生で育った女性たちは自然にファッション感覚を磨いていたのだろう。ファッションの本場であるフランス、イタリアの靴に魅せられたのだ。
そして、同じようなファッション感覚を持つ女性は桐生の外にもいた。

「当時は群馬県内の大都会である前橋や高崎の靴屋にも、フランス製、イタリア製の靴は置いてありませんでした」

だから、時を追って、客層はさらに広がった。遠く高崎や前橋、沼田から、フランス製、イタリア製の靴を求めてクイーン堂シューズに足を運ぶお洒落な客が増え始めたのだ。

「いまのように、インターネットやSNSなどの安価な情報伝達手段はありません。かといって、新聞やテレビに広告を出すほどの資金はクイーン堂にはないから広告なんてまったくしなかった。それなのに遠くからのお客様がおいでになるようになった。桐生のクイーン堂シューズにはフランス、イタリアの最先端のモード、ファッショナブルな靴が置いてある、という話がいつの間にか口づてで伝わったらしくて」

賭けが見事に当たったといえる。昭和60年(1985年)ごろには、フランス、イタリア製の高価な靴が毎月50足、100足と売れるようになったのである。

「毎月、100足? 桐生のような地方都市で、どうして高価な輸入靴がこんなに飛ぶように売れるんだ?」

そんな疑問を持った輸入靴の問屋が視察に来たこともあった。繊維の町・桐生の豊かさと、輸入靴を売っているのは群馬県内ではクイーン堂シューズだけだから県内全域、近県からも客が来るのだ、と説明すると納得して帰っていったという。

靴職人がコツコツと注文靴を1足ずつ作る工房から、注文靴の注文を受けながら既成靴も合わせて販売する店に、そして既成靴だけを販売する店へ、さらに女性用の既成靴の専門店へと、クイーン堂シューズはまるで時代の風向きを読むように、しなやかにその姿を変えていった。

写真=クイーン堂シューズにはいまも輸入靴がある。ポルトガル製の靴の前に立つ琛司さん