花を産む さかもと園芸の話 その12 開花促進剤

愛情は花にも伝わるのだろうか。さかもと園芸の花は、時折思いもよらぬプレゼントをくれる。正次さんはビックリするような突然変異に出会ったのである。

「プリマウェーブ」をきっかけに、正次さんはシクラメンの育種にも取り組むようなっていた。いろんなシクラメンを雑多に掛け合わせていたら、八重の花びらを持つシクラメンが突然生まれ落ちたのだ。シクラメンは普通、4枚から5枚の花弁をつける。ところが、このシクラメンは花弁が2重になっており、8枚から10枚の花弁がある。

それまで見たこともなかった珍しいシクラメンが目の前にある。市場に出せば大受けするだろう。だが、商品にするには量産ができなければならない。何本か咲いた八重のシクラメンから種を取って蒔いてみた。だが、安定しない。八重の花が欲しいのだが、思ったような花をつけるのはごく一部でしかない。何度やっても同じだ。これでは量産はできない。つまり、市場に出せない。どうすればいい?

種から育てることは難しいと見て取った正次さんは「メリクロン」という手法を導入した。茎の先っぽを切り取って培地で育てる。アジサイを挿し木で増やすのに似た、一種のクローン作りである。上手く育つのを確認して出荷に踏み切った。

「なにしろ、こんなシクラメンを作っているところが他にありませんから、はい、今でも高い値段で引き取っていただいています」

正次さんはこの新種に「ウィンク」という名前をつけた。2013年、白地にピンクが入った「ウィンクシャワーピンク」が全国花卉品評会で農林水産大臣賞を受け、翌2014年には赤みが強まった「ウィンクシャワーレッド」が第63回関東東海花の展覧会で農林水産大臣賞に輝いた。

写真:坂本園芸のシクラメンは、開花促進剤フリーで伸び伸びと咲きそろっている

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