種取りには励みながらも、正次さんはシクラメンの交配には手をつけようとしなかった。国内での育種が全く行われていなかったアジサイと違い、シクラメンはすでに様々な種類の花が市場に出回っていて、
「これ以上の種類は必要ないだろう」
と考えたいたらしい。
そんな正次さんの背中を押したのは、東京の種苗会社から突然舞い込んだ依頼だった。
「新種を作ってもらえませんか」
おそらく、アジサイでの華々しい成果で正次さんの育種の腕が見込まれたのだろう。
シクラメンの一種に、花が羽子板の羽のような形をした「プルマージュ」がある。
「それをフリル付きにしてもらえないか」
というのである。
頼まれれば断らない。すぐに取りかかった。「プルマージュ」とフリル付きの花弁を持つ数種類のシクラメンとを掛け合わせる。フリルはすぐにできたが、色がなかなか安定しない。ローズ、ワイン、ピンク、パープルになって欲しいのだが、白が多いのである。

「あれは、かれこれ4、5年かかってしまいましたね」
と久美子さん。やっとできた種は種苗会社が買い取り、販売した。この新種を
「プルマージュウェーブ」
という。
さかもと園芸でも作っており、さかもとの頭文字「S」を加えて、「プルマージュSウェーブ」の名前で販売している。
写真:シクラメンの手入れをする坂本さん一家