ミシンの魔術師—大澤紀代美さん 第3回 肖像刺繍
「肖像画を刺繍してみようかな」 ふと思いついたのは19歳の時だった。後に詳しく触れるが、この時大澤さんはすでに父藤三郎さんを社長にいただいて会社を興していた。事業は順調で、従業員を数十人抱えて毎日朝6時から午前1時、2時...
「肖像画を刺繍してみようかな」 ふと思いついたのは19歳の時だった。後に詳しく触れるが、この時大澤さんはすでに父藤三郎さんを社長にいただいて会社を興していた。事業は順調で、従業員を数十人抱えて毎日朝6時から午前1時、2時...
視線の鋭さ、光の当たり方による目の表情の変化、毛並みの美しさ、髪の流れの自然さ。大澤さんの刺繍画には、他の追随を許さないいくつもの特徴がある。 それらは、ひょっとしたら他の人の作品と見比べて初めてはっきりする特徴かも知れ...
いま振り返れば、1970年代代はプレタポルテ(高級既製服)の隆盛期だった。 プレタポルテの語源は、英語でready to wearを意味するフランス語である。それまで既製服は「コンフェクション」と呼び習わされていたが、ど...
いまでは「ドン小西」と表現した方が通りがいいかも知れないファッションデザイナー、小西良幸さんとの仕事が始まったのは、カーンとの仕事が終わって間もない1987年のことだった。知り合いの女性に 「小西さんと会ってみませんか」...
見知らぬ人からの手紙を受け取ったのは1975年秋だったと記憶する。天下の日展からは門前払いを受けた大澤さんだったが、そのころには「知る人ぞ知る」刺繍作家として世に認められ始めていた。突然の手紙を受け取ることも増えていた。...