履きやすい靴、とは? クイーン堂シューズ 第11回 インソールは不要

☆クッション性

 「膝に優しい」

などの謳い文句でクッションの良さをアピールする靴がある。確かに、柔らかい靴底は足を地面に着ける時の衝撃を和らげる効果がある。素足で床を歩いてみれば、1歩足を踏み出すごとに膝が受ける力を実感できる。膝にはこの衝撃を吸収するための軟骨があるが、高齢になれば長年の使用で磨り減ってしまうというから、衝撃を和らげてくれるクッションのいい靴は、確かに膝に優しいといえる。

だが、小泉充さんによると、これも考えものだという。

クッション性がいいと歌う靴の多くは、フワフワする柔らかい素材を靴底に使っている。極端な例としてスポンジを考えてみよう。スポンジは上下だけでなく、あらゆる方向に伸び縮みする。靴底に使う柔らかい素材もスポンジ同じようにあらゆる方向に伸び縮みするため、足下が常にゆらゆらする。そのため、いつも足の筋肉が緊張してバランスをとることになり、疲れてしまうというのだ。

「それに、地面からの衝撃を少なくしすぎると、骨に悪いという研究結果も見たことがあります。だから、適度なクッション性を持つ靴底ならいいのですが、柔らかい素材を厚めに使ってクッション性の良さを歌っている靴は避けたほうが無難です」

☆インソール

インソールとは靴の中敷きのことである。
充さんはインソールメーカーの講習会にも参加したことがある。だが、客にインソールを勧めようとは思わない。

インソールは足と靴との一体感を高めるといわれる。だが、それが目的なら、クイーン堂シューズには注文靴工房だった時代からの技がある。インソールに頼る必要はない。むしろ、一人ひとりの足に合わせてソールの下に詰め物をするクイーン堂シューズの方が、靴との一体感は勝るはずだ。

X脚、O脚の治療にインソールが使われることもある。かかとの部分にX脚の人は足の内側を高く、O脚の人には逆の傾斜をつける。この傾斜で矯正しようというのである。

「しかし、これは骨格を変えようということです。無理に骨格を矯正すれば膝や足、足の付け根、腰などに悪影響が出る恐れがあります。足はまっすぐになったけど、ほかに障害がたくさん出た、というのでは本末転倒ではないでしょうか」

ハイアーチとは、土踏まずのカーブがほかの人たちより深い足である。日本語では凹足(おうそく)という。扁平足の逆の症状である。足裏全体で着地できないため、かかとと足の前部に負担がかかり、疲れやすかったり、足が痛んだりする。その治療の1つに土踏まずの部分を高くし、ハイアーチになった土踏まずに密着するインソールの使用があるのだが、これにも充さんは否定的だ。

「インソールを使っても、効果があるのは靴を履いている時だけです。しかも、コルセットをはめているような状態ですから、使い続ければ周りの筋肉は衰えます。さらに、靴を脱げば土踏まずの支えがなくなるので症状が悪化するのではないかと思うのです。もっとも、すでに痛み出しているハイアーチなら、痛みを和らげるためにインソールを使うのはありだと思いますが」

充さんが唯一客に勧めるインソールは、足の前の方にある横アーチの中央部分を持ち上げるものだ。

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ここを少し持ち上げてやると、靴の中で指が自由に動くようになり、歩行が楽になるのだという。

「もっとも、当店でお買い上げいただいた靴なら、ソールの下に詰め物をしてインソールを入れたのと同じ形状にできますので、こんなインソールをお買い上げいただく必要はありませんが」

それでも、クイーン堂シューズにはインソールが置いてある。客に勧めず、買ってもらう必要もないのに、どうして?

「中には、どうしてもインソールが欲しいとおっしゃるお客様がいらっしゃるので、靴屋としてやむを得ない品揃えです」

写真=細い足、頑丈な足それぞれに合う靴がある

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