松井ニット物語

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その9 京都工芸繊維大学

兄の隆さんは家業を継ぐことを嫌がり、すでに家を出て大阪の染料会社に就職していた。であれば次男の自分が「松井工場」を継がねばならない。そのためには、もっとたくさんのことを知らねばならない。中学の時は京都工芸繊維大学への進学を漠然と夢見ていたが...
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その8 糸杉

昭和28年(1953年)、智司少年は桐生高校に進んだ。父・實さんはすでにない。東京の会社に貸していた工場の契約が終わったあと、母・タケさんは市内の機屋さんから中古のラッセル機を譲ってもらい、編み物工場を始めた。セーター地や安価なカーテン地を...
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その7 変化

もう少し、中学時代の智司少年を追いかけよう。暮らしに変化が訪れるからである。いまは小学生から英語の授業が始まるが、当時は中学に入って初めて英語に触れた。教科書に並ぶabcに智司少年は戸惑った。全く理解できないのである。小学校の頃は、勉強など...
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その6 若鷹の爪

智司少年は終戦の前年、桐生市立東小学校に入学した。あれだけのマフラーをデザインする人である。そして、繁栄を極めた桐生で和の美に取り囲まれて育ち、繊細な美感を育ててきた子どもでもある。才能の一端は幼い頃から迸り出て、「これが子どもの絵か、と担...
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その5 桐生の着倒れ

話を少し戻す。2歳から預けられた広沢のおばあちゃんの家も着道楽だったが、戻ってきた生家もまさるとも劣らぬ着道楽だった。母は、普段着と外出着をきっちり区分けし、「普段着は何でもいいけど、外に出るときはちゃんとしたものを身につけていないと気後れ...