松井智司の「美」

松井ニットのマフラーの色彩は、桐生の伝統的な「和」の記憶と、カンディンスキーら西洋芸術の「洋」が融合して生まれた。合唱の「倍音」のように色が響き合う「色の合唱」を理想とし、名だたる巨匠との仕事や茶の湯の「綺麗さび」で磨かれた感性を、一編みのマフラーへ昇華。それは一生分の美意識を編み込んだ芸術品である。(全29回)
第1回:旅立ち23兆通りの色合わせから選ぶ「これだ!」。その美の根源にある、智司社長が育んできた感性を辿る旅へ。
第2回:虚弱児「育たない」と言われた虚弱な幼少期。母に背負われ東大病院へ通い、桐生の野山で逞しさを取り戻す。
第3回:藤娘豪華な舞台や着飾る女性たちに囲まれた幼少期。絢爛な「美」に魂を奪われた経験が、独自の感性を育んだ。
第4回:四丁目小町超一級の美意識を持つ叔母、そして料亭や旅館の意匠。洗練された「本物」に囲まれ、審美眼を磨いた少年期だった。
第5回:桐生の着倒れ「着倒れの街」桐生。最高の着物を纏う母や街を彩る芸者衆を見つめ、多感な時期に美の真髄を吸収した。
第6回:若鷹の爪絵が苦手だった少年時代。だが、合唱に励む傍らで西洋美術史に興味を持ち、美への探求が始まった。
第7回:変化父の死と家業の苦境。逆境で知性に目覚めた少年は、卒業アルバムの公募で人生初のデザイン採用を勝ち取る。
第8回:糸杉本物の西洋美術に触れ、感性がさらに拡大。ゴッホの色彩に日本の伝統美を重ね、独創的な美意識を確立した。
第9回:京都工芸繊維大学母を支えるため大学を断念。「工学」ではなく「工芸」にこだわった少年の直感が、未来の表現力を決定づけた。
第10回:対米輸出東京での修行で培った信頼と知識を手に桐生へ。輸出ブームの中、検品と機械改造に明け暮れ、家業を支えた。
第11回:茶の湯茶道に打ち込み、雪上での野点を楽しむ。幼少期の仕舞が活きた所作で頭角を現すが、本物への渇望も募る。
第12回:小堀遠州本物の茶道に触れ、小堀遠州の「綺麗さび」に開眼。その華やかさと雅の精神が、今のデザインの礎となる。
第13回:日米繊維交渉日米交渉で対米輸出が激減し、廃業寸前の危機に陥る。だがこの地獄こそが、OEMから脱却する転機となった。
第14回:デザイナーズブランド窮地を救ったのは新進デザイナーたち。川久保玲ら巨匠の過酷な要求に応え続け、職人技は芸術へと昇華する。
第15回:期待を裏切る巨匠らの想像を超える提案で信頼を獲得。共同作業を通じ「色」の力を知った社長は、表現者への道を歩む。
第16回:ヨーガン・レール天才デザイナーとの出会い。職人の意地で実現した「多色パイル地」の大ヒットが、極彩色の未来を拓いた。
第17回:多色のリブ編みレール氏の助言で挑んだ多色リブ編み。色の情緒を解する師との出会いが、後の独創的なマフラーへ結実する。
第18回:2冊の本デザインの原点になったカンディンスキー。印象派を超えた強烈な色彩の響きを求め、古びた芸術論に答えを探す。
第19回:色の合唱カンディンスキーが提唱した「色の合唱」。音楽と色彩を同質に捉える感性が、マフラーの響き合う配色を生んだ
第20回:和と洋カンディンスキーの多色世界に友禅染の記憶を重ね、和洋の美が融合。世界の広さを知り、表現の幅を広げた。
第21回:YEARLING60年続けた合唱で体感した「倍音」の美。その響きこそが、多色の糸を調和させる色彩設計の根源となった。
第22回:真っ赤なロングマフラーフィレンツェで目撃した、季節を先取る男たちの赤いマフラー。装飾品としての可能性に、美の窓が開いた。
第23回:買い漁るイタリアで「見せるマフラー」の楽しさに開眼。多色のミッソーニに圧倒されつつ、美の資料を買い集めた
第24回:森山亮さん恩人・森山氏の「脱下請け」の助言。言われた通りに作る日々から、自ら企画し販売する自立の道へ
第25回:世界一(「THE世界一展」に選出された。三菱レイヨンの新素材に独自の編みを施し、ついに下請けを超えた究極の品を創出。
第26回:指名買い一度は消えた傑作が「世界一」を機に復活。粗悪品を寄せ付けぬ本物の肌触りが、熱狂的な指名買いを呼んだ。
第27回:UNTHINK勉強会での「多い」という言葉が、半世紀の蓄積を繋いだ。四つの「多」を掲げ、独自ブランド誕生へ。
第28回:クリムト画家の色彩をマフラーに昇華させるため、模倣を捨て「クリムトを壊す」。直感の勝負で新たな調和を編み出す。
第29回:あなたの1本蓄積された一生分の美意識を、一編みのマフラーへ。苦悩の末に生まれる色彩の合唱が、誰かの冬を彩る。