今氏一路さんと薗田佳介さんが「CICAC」を立ち上げたのは2017年4月のことである。今氏さん36歳、薗田さん38歳での起業だった。
2人は東京にある別々のIT系の会社に勤めていたが、知り合ったのは仕事を通じてではない。2人とも音楽、中でもロックが大好きだ。それも聴くだけではない。趣味が高じて「森ジャングル」という4人組のロックバンドを作っていた。今氏さんはパソコンの打ち込みとキーボード、薗田さんはリードギターを受け持ち、ヴォーカルのないインストルメンタルの自作曲を中心に演奏を楽しんでいた。
バンドとして活動を続けていればお互いの気心も知れてくる。やがて打ち解けた2人は同じような仕事をしていることを知った。そうか、同業の仲間か。
今氏さんの記憶によれば、それは酒の席での話しだった。
「ねえ、薗田さん、2人で会社を立ち上げませんか?」
今氏さんはアメリカの大学に留学し、グラフィックデザインを学んできた。帰国してデザイン系の会社に勤めたが、
「これからはデザインだけではない。プログラミングの技術も必要だ」
と自学自習でその技術を身に付けた。
薗田さんは根っからのプログラミングの職人である。付き合いが深まるにつれて今氏さんは彼の力量に一目置くようになっていた。
一般的に、コンピューターのプログラムを書くエンジニアは、客に求められる機能を組み込むことは得意だが、使う人の使い勝手に響く画面のデザインが苦手といわれる。今氏さんはアメリカで最先端のデザインをみっちり学んできた。薗田さんはプログラミングが得意である。2人が組めばユーザーインターフェイスに優れ、使い勝手のいいソフトウエアができるはずだ、と今氏さんは考えたのだ。
「でも、いま思い出すと、36歳と38歳の起業なんて……。まだ若かったからなのか、それとも酒に酔った勢いだったのか、って考えてしまいます」
独立した2人はオフィスを東京・渋谷に設けた。国道246号から少し入った渋谷区西原である。
「CICAC」を立ち上げた時、2人で申し合わせたことがある。「CICAC」は、ゼロからソフトウエアを作る会社にしようという1点である。
世には、ソフトウエアの「部品」となるプログラムが、有料、無料を含めて数多く流通している。客の求めに応じてプログラムを書く会社の多くはこうした「部品」を寄せ集め、一部を書き換えたり、そのプログラムにないものを書き加えたりして求められた機能を生み出しているところが多いという。ソフトウエアのアセンブリ工場ともいえる。
しかし、これでは本当に使い勝手のいいソフトウエアにはならないというのが2人の考えだった。あのトヨタ自動車だって、本社工場はアセンブリをしているが、使う部品は系列の部品メーカーに細かな仕様まで指示して作ってもらっているから世界に評価される車を作り出しているのである。流通しているプログラムの「部品」にはそれぞれ癖があり、能力の限界もある。それを繋ぎ合わせてプログラムを作るのだかから、仕上がったソフトウエアの性能は、どうしても「部品」の性能に左右される。例えてみれば、東京・葉原の電気街に出かけて既存の部品を買い集め、自作で電気製品を組み立てるようなものだ。
だから最高の性能を求めれば、部品のひとつひとつを最初から目的に合わせて設計し、製作するしかない、というのが2人の合意だったのだ。そして、それができる技術が自分たちにあると2人は確信していた。
写真=今氏さん(左)と薗田さん (桐生市本町6丁目のCICAC前で)

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