それでも、自動運転への関心を失ったわけではない。アメリカで、中国で、そして日本でも進められている自動運転の開発には目を凝らしてきた。実用的な世界初の自動運転を目指す開発には縁がなかったとしても、自動運転は将来のタクシー事業、沼田屋タクシーを支える中核になるはずなのだ。
アメリカでは2018年、サンフランシスコやフェニックスなど一部の都市で「ロボタクシー(Robotaxi)」と呼ばれる自動運転によるタクシーが営業運転を始めた。2023年には歩行者との接触事故を起こしたが、総じて事故率は低いといわれている。雨や雪などの悪天候に弱い、緊急対応への判断力にまだ課題があるとの指摘もあるが、とにかくアメリカでは実用化の段階に進んだ。
日本でも一部地域で実証実験が始まってはいる。だが、政府は人の手を一切借りない完全自動運転車については、2030年代に実現したいという目標を掲げているにとどまる。沼田屋タクシーが自動運転タクシーを使えるようになる日はまだ遠いようなのである。
待っている間にも、タクシー事業は年々苦しさ増し続けた。歯が抜けるように運転手が1人、また1人と減っていった。補充しようにも、タクシー運転手募集への応募者がいない。
「何とか手を打たないと、自動運転が実用化されるまでにタクシー事業が行き詰まってしまいかねない」
焦りにも似た思いで世界の交通事情に目を凝らしていた小林さんが気を引かれたのが、スマートフォンのアプリでタクシーを呼べる新しいサービスだった。「第1回 配車アプリ」で書いたように、2010年にアメリカ・サンフランシスコで始まった事業だ。日本で普及し始めたのは2018年ごろである。小林さんはこのサービスを調べ始めた。東京まで足を伸ばして「GO」の説明会に参加してみたのもこの頃だ。それも、1回だけではもの足らず、2回も出席した。
その結果、「GO」は地方都市では使えないと小林さんが判断したことは、「第1回 配車アプリ」で書いた通りである。いや、「GO」と覇を競っているほかのプリも同じだった。桐生のような地方都市では、配車アプリは使えないのだろうか?
そして、小林さんの目には配車アプリの問題点がもう1つ見えてきた。アメリカで急速に配車アプリが広がったのはライドシェアと組み合わせたからだというのだ。
ライドシェアとは、単純にいえばすれば白タク営業である。客を運ぶために必要な二種免許を持っていないドライバーが自分の車で乗客を運び、料金を受け取る。それをスマホのアプリを使ってシステム化したものだ。ライドシェアで稼ぎたい人はUberなどのスマホのアプリに登録する。すると、そのアプリが乗客連れてきてくれる。
もともと土地が広大なメリカでは、近くに住む人が誘いあって1台の車で買い物などを済ませ、乗せてもらった人は
「せめてガソリン代に」
といくばくかの金を、車を出してくれた人に支払うことが習慣だったという。そんな社会慣習があったところで、「白タク営業」をしようという人たちをスマホの配車アプリで組織化した。これなら運転してくれる人に気兼ねしなくていい。必要な時にすぐに使える。だから配車アプリが急成長した、とは小林さんが誰かに聞いた話である。
ところが、日本では白タクはご法度である。乗客を運ぶ仕事は二種免許を持つプロのドライバーに任せなければならないというお国柄だ。当然のこととして、ライドシェアなど認められるはずがない。桐生にだって副業で金を稼ぎたい人はいるはずだ。配車アプリとライドシェアを組み合わせることができれば深刻な運転手不足を何とかできるかもしれないのに……。
だが、自動運転タクシーが桐生の町を走る日や、日本でライドシェアが認められる時を待つゆとりが沼田屋タクシーにあるか? どう考えても八方ふさがりである。私は、沼田屋タクシーはどうしたらいいのだろう?
写真=GOアプリは都会を中心に普及が進んでいる


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