履きやすい靴、とは? クイーン堂シューズ
第8回 足と靴を学ぶ

クイーン堂シューズ

女性靴の流れが変わったのは、充さんの記憶では2010年前後である。それまでの女性靴はエレガンスといわれるデザイン性を重視した靴が主流だった。その代表が、履き口が広く開いて足の甲が見えるパンプスである。やや高目のヒールがついているものが多い。このうちヒールが7cm以上あるものをハイヒールという。お洒落だけでなく、正装、ビジネスにも使える女性靴の右代表で、クイーン堂シューズではエレガンスが75%前後を占めていた。あとはスニーカーなどのカジュアルな靴が10%、高齢者向けの脱ぎ履きが楽な靴が15%という割合だった。

その比率が劇的に変わり始めた。メーカーが意図的にカジュアルな靴を広めたこともある。同時に、銀行の窓口でもノーネクタイのカジュアルな服装が増え、皆が重厚さ、見た目の華やかさより快適さを求める時代を迎えていたこともこの流れの背中を押した。エレガンス系の売り上げが急速に落ち、楽に履ける靴を求める客が増えたのである。

クイーン堂シューズはお洒落で美しい女性用の既成靴を売りながら、かつての注文靴工房から引き継いだ技を生かして履きやすい靴に仕立てて多くの固定客を得てきた。だから、クイーン堂シューズの時代が来たともいえる。

それはありがたい。だが、充さんはふと思った。

「履きやすい靴って、どんな靴なのだろう?」

考えてみれば、クイーン堂シューズが既成靴を足にフィットさせてきたのは、注文靴工房時代からの経験知である。その経験知があったから遠くの客も引き寄せ、多くの町の靴屋さんが閉店に追い込まれた時代の荒波を生き抜いてきた。しかし、経験知だけでは応用できる範囲が限られる。もっと人の足の構造や足と靴の関係、履きやすい靴とはどんな構造を持っていなければならないのかの理論を身に付けられたら、もっとお客様の足を守ることが出来るのではないか? 客を増やせるのではないか?
せっかくクイーン堂シューズの時代が来たのだ。クイーン堂シューズはもう一度脱皮しなければならない!

充さんはコツコツと研究を始めた。足の本、靴の本、仕事に役立ちそうな本を読んだ。靴メーカーやインソール(靴の中敷き)メーカーが開く講習会に、時間が許す限り参加した。

足には3つのアーチがあると学んだのも、そんな講習会でのことである。下の図にあるように、横アーチと、2つの縦アーチだ。

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人の足には、なぜこんなアーチがあるのか?
まず、歩いたり走ったりする際の衝撃を吸収するバネの役割がある。自動車の車輪に必ずスプリングが組み合わされているのと同じである。スプリングのない車を作れば乗り心地が悪いだけでなく、地面からの衝撃をそのまま受け続ける車体はやがてボロボロになるだろう。
それだけではない。立ったり歩いたりする時に体をバランスよく支えるのもアーチのバネ昨日の役割だ。それに、アーチのバネは地面を蹴る力を助ける。
足裏の静脈も歩くたびに伸び縮みして血液の循環を助ける。また第二の心臓といわれるふくらはぎの筋肉も、アーチが正常なら歩いたり走ったりするたびに鍛えられる。

では、アーチが壊れればどうなるのか。
横アーチが崩れると、外反母趾、モートン病(足の指の付け根が痛む)、内反小趾(小指が薬指の方に曲がってしまう)、角質・たこ・魚の目、開帳足(横アーチが崩れて指が横に広がる)、陥入爪・巻き爪、ハンマートウ(指が変形する)などの原因になる。
内側縦アーチが崩れると、扁平足、むくみ、凹足(土踏まずが低くなる)、冷え、疲れを引き起こす。
外側縦アーチが崩れると、O脚・X脚、角質・たこ・魚の目、膝の痛み、腰の痛みもたらす。

学びながら、少し怖くなった。靴の選び方を間違えると、こんなに様々な病を招き寄せる恐れがあるのか。客の足にきちんとフィットする靴を選んで差し上げる靴屋の使命に身が引き締まった。さらに勉強が進んだ。

写真=充さんが参加した講習会の一幕

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